まちばり

つくりかけのおもいでのパッチワーク

衣服購入録 世界破壊編

 人間というのは、衣食住揃ってないと、人間としての資格を剥奪される。

 というのも、法律でそのように決まっているので、これは誰にも変わらず等しく課せられた義務であり、これを守らないと自分が死ぬか、法律のもと裁かれることが確定しているのである。

 そしてこの3つのうち、外を歩く場合は衣服を着用していないと、警察から逮捕され、美味しくないご飯と単純労働とをしなければならなくなり、前科というものがついて、これから死ぬまでの人生がみっともなくなる。

 これが住居に守られているなら限りではないのではあるが、ふとした瞬間に家から足を出したのを見られた瞬間に人生がみっともなくなるのである。

 衣服というのは、ものすごくおそろしく、かつ、大切なものなんである。

 つまりまあ、最低限を確保してないと、社会に抹殺されるのである。

 そしてこの、SNSのはびこるワールドでは、運悪く撮影などされてしまえば拡散され、場合によっては自殺さえも選ばなければならないのである。

 それほど、衣服というものは大事なのだが、いかんせん、「おしゃれ」「コーデ」などという光をはなつワードにより、我々のような大きめの石の下のダンゴムシ、重箱の隅、逆を向いてるひまわりにとって、非常に衣服店への入場ハードルというものは高い。

 考えてもみてほしい。

 そういった店では、ある程度そのように衣服購入のモチベーションが高い人間のために、店員さんはできるかぎり洒落た格好をしているのである。

 そして、衣服購入のモチベーションの高い人間というのは、見た目に気を使い、ある程度の金銭を所持しており、いっぱいの友達がおり、夏はバーベキューに海、昼は鍋にスノボ、部活はテニス、スマートフォンのゲームはパズドラ、といったふうに人間として完成された、模範的人間であり、すごい企業とかから内定をもらったりして人生をエンジョイ、湘南乃風、ワニマ、といった感じである。

 一方私は通学衣服は常にジャージ、金銭はさほどあらず、大学でできた友達は全員中国人(留年したのでもう全く顔を合わせない)。夏は家、冬も家といった体たらくであり、言ってしまえば真逆の人間である。

 ではその、湘南乃風人間に向けられた店に入店する、ということはすなわち、死ということであり、結局私は爆笑しながらジャージで暴れるほかないのである。

 しかし、それではよくない。

 別にジャージが悪というわけではないし、最低限、衣服ではあるが、つるつるしているのでなんか嫌なのである。

 嫌ならなにをすればいいか。

 変えていく、行動していかなければならないのである。

 てなわけで、私は「誰だって自分の宿命に打ち勝ちたいんだよ、バイ、寺山修司。あゝ荒野」とか叫びながら近所の古着屋に向かった。

 

 古着屋は凄惨たる有様だった。私はイヤホンで自衛していたので、湘南乃風、ワニマに対してシールドを張り、爆音で筋肉少女帯頭脳警察を流して逆相違で打ち消す、いわばノイズキャンセリングをすることができたのだが、似合う服を選び合ってるカップル、でかい外国人、やばい店員がげらげら笑いながら服を選んでいるのである。

 逃げ出しそうになった。が、私は立ち向かう、と決めたのである。皆殺しの川へ赴く象の気持ちで歩みを進めると、ジーンズコーナーがあった。ハンガーに噛まれて吊るされているのである。

 私は「ほほん、こういうものをつけることによって、我が身がすばら、ということを顕現させ、町をゆるゆると闊歩することができるのであるか」と思い、一枚一枚見て、あるダメージジーンズを見て、手が止まった。

 持ち主が明らかに死んでいるのだ。

 どう考えても日常生活でつけられるにしては限界がある傷が四方八方についたあげく、汚れに見えるそれも米国の国旗であるジーンズがあったのだ。

 これは間違いない、持ち主は米国人に殺害された挙げ句、米国国旗をスタンプ、月に旗を刺したあいつと同じようなことを人間におこなったのである。

 きっとあの、入店したときにいた爆笑しているでかい外国人は、指名手配の暗殺者であって、複数人で来ていたのもみんなで囲んで殴り殺して、それを知らずと高額で買い取った黄色人種を見て爆笑していたのである。

 許せん、しかし、私にはなにもできない、と思い、複数枚見ていたところ、ぜんぜんそんな感じの、持ち主が死んでいるダメージジーンズはいっぱいあったのである。

 ということはつまり、文学的に解釈するに芥川龍之介の「羅生門」なんである。

 あれはノリで死体がいっぱいあるところに入ったやつが髪の毛を引っこ抜いてるばばあを発見、かつらにするとかほざいておるので、生きるためには悪いことをする必要もあるんだよ、ということを発見したが、それはそれとして、そのノリで入ったやつがばばあの服を剥ぎ取って、売り飛ばすぞ、とスキップする、みたいな話だった気がするが、つまり、あの外国人は祖国から逃げてきて、どっかで死体からジーンズを剥ぎ取って売って、お金がいっぱい入って嬉しいなってしてたわけである。

 私は、彼らに対して疑いの目を向けたことを恥じ、でも死んだ人の服を着る趣味はないので、破れていないジーンズをかごに突っ込み、そしてついでに、人間的装いをするためのジャージからの脱却、ということでシャツを覗いたのだが、意味不明な外国人の顔面や、意味不明な文字が描かれているものばかりで、さらにまれにそういったものでも意味不明な値段がついていたりする。白いのでいいじゃないか、と思うのだが、そんななか、意味不明な外国人の顔や、意味不明な文字が書かれている服を買うリスクというのは実は高いのではないだろうか、と思ったのである。

 外国人が「黄色人種、死ね!」と胸にでかでかと書かれている服を着て歩いたら殺されること間違いなしだろう。しかし、英語で「俺ら白人主義者」とか書かれていてもわからないし、それで偶然、アメリカ人に見られたら、殺害されてしまうのである。

 服を買うだけでロシアンルーレットに参加させられるのである。

 ここで私は、何が衣食住だ、揃っていなければ自殺しなければならない、揃っていても場合によっては殺されるではないか、と絶叫しながら、世界を焼くことにしたのである。